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JSPSアジア·アフリカ学術基盤形成事業に採択された『サステイナビリティ課題の解決に向けた社会デザイン研究の拠点形成』(代表:味埜俊教授)を実施しています。

Last updated 2019/02/07

東京大学大学院新領域創成科学研究科グローバルリーダー養成大学院プログラム(GPSS-GLI)では、平成30年度より日本学術振興会アジア·アフリカ学術基盤形成事業に採択された『サステイナビリティ課題の解決に向けた社会デザイン研究の拠点形成』(代表:味埜俊教授)を実施しています。



1.事業の概要

 本事業は、アジア・アフリカにおけるサステイナビリティ課題の解決にむけた社会デザイン研究の拠点形成を目標としています。気候変動や急激な都市化など、社会の存続を脅かすサステイナビリティ課題は、環境、経済、社会文化など、多くの側面に複雑に絡み合って存在し、その解決のためには技術的アプローチだけでは不十分です。

 本事業での「社会デザイン」とは、望ましい社会の実現に向けて、多様なアクターが課題の特定と分析、解決策の検討と実施、及びその過程の評価を連携しながら進めていくための仕組みと場づくりを意味します。背景や専門性の異なるアクターの連携の必要性はこれまでも言及されてきていますが、その具体的な枠組みと事例研究はまだ希少です。特に多様なアクター間のファシリテーションは、学際的領域であるサステイナビリティ学に期待される役割であると言えます。

 本事業における社会デザインの具体的な進め方として、社会変革のために必要となる、研究・教育・社会実装の三要素を同時並行的に展開し、各要素からの知見集約を通じて、持続可能な社会への転換を促します。従来、これらの3要素は、「研究活動が教育に反映される」、「研究成果が社会実装される」、「教育を通じた人材育成によって社会実装が展開していく」、などのように、初動からその具体的な効果が社会に反映されるまでに一定の時間差がある形式になっていました。しかし、これでは日々そこにあり、将来的にも拡大が続くことが予測されているサステイナビリティ課題への対応としては不十分です。日々そこにある課題に直ちに対応するための短期的対応と、将来世代との公平性等を考慮した長期的対応の両方を生み出すことができる仕組みを内在化した方法論の構築が必要となります。

図1.社会デザインを通じた研究・教育・社会実装の同時並行的な展開

 研究・教育・社会実装の三要素が同時展開することで、各分野からの継続的なフィードバックが生まれ、その結果として、プロセスの改善機能が発揮されます。経済や社会制度、人々の価値観などが急激に変化し、同時に人口規模のために大きな環境負荷が予見されるアジア・アフリカの文脈においては、この改善機能が非常に重要となります。



2.本事業で扱う課題:農村都市連携(
Rural-Urban Linkages)

 多様なサステイナビリティ課題のなかから、本事業では「農村都市連携(Rural-Urban Linkages)」を、アジア・アフリカ共通の重要課題として位置づけ、社会デザインを通じた拠点形成に取り組みます。今後更に都市化が急速に進んでいくアジア・アフリカでは、都市の住環境等に関する取り組みだけではなく、都市と農村間のつながりに焦点を当て、両地域の連携を通じた持続可能な発展が必要となります。このテーマの中には、若者人口の農山村地域からの流出、人口の高齢化、都市の過密化と環境変化、主幹産業の衰退とコミュニティのレスポンス、アントレプレナーシップなどが含まれます。



3.事業を通じた研究拠点の形成

 本事業は交流期間に持続可能な農村都市連携のあり方を示す社会デザインの具体的枠組みと事例を提示することを最終年度までの目標とし、これを達成するためアジア・アフリカをつないだサステイナビリティ学の国際拠点の形成を目指しています。具体的には、秋田(国際教養大学)と南アフリカ・クワァクワァ地区(フリーステート大学)の2箇所を対象地域として共同フィールドワークを実施します。

図2.社会デザインの国際的ネットワーク構築イメージ図




4.活動内容

 本事業では、アジア・アフリカの参加機関から若手研究者を中心に共同研究チームを構成し、主に日本・秋田県と南アフリカ・フリーステート州クワァクワァ地域において研究セミナーと共同フィールドワークを実施しています。以下に今年度の活動報告を紹介しています。次年度以降の活動についても随時アップロードする予定です。

4-1. 平成30年度活動レポート

①南アフリカ・クワァクワァ地域でのフィールドワーク(2018年7月31~8月6日)

 2018年8月に南アフリカにて本事業におけるアフリカ側第1回目のフィールドワークを実施した。対象地域として選定したフリーステート州クワァクワァは、レソトの北東側に位置し、南アフリカ国内で最も標高の高い地域となっている。同地域にはゴールデンゲートハイランズ国立公園があり、ツーリズム分野で高い可能性がある。また初等中等教育に力をいれており、学校数が多い。このこともあり、周辺地域から子どもの教育のためにクワァクワァに移住してくる世帯も一定数いる。その一方で、失業率は高く、半数から6割の世帯が国や州政府からの生活保護に頼って生活をしている。インフォーマルな雇用も多く、路上で野菜や食品を売ったり、洗車や散髪で日銭を稼ぐ住民が多い。生活インフラの整備も遅れており、汚水やごみ処理など、環境悪化につながる状況も多い。特に冬場は気温1〜2度から数日はマイナスまで冷え込むことがあり、このときに住民の多くが倒木を燃やして暖を取る。このため風のない日の朝には、クワァクワァの全域にスモッグがかかることがある。クワァクワァ地域は、北側にヨハネスブルク、南側にダーバンという2つの都市が車で3時間の距離にあり、若者の多くは中学校・高校、大学の卒業後にこれらの都市へと職を求めて流出する傾向にある。


図3.フリーステート州クワァクワァ地域


 フリーステート州のもうひとつの重要な背景として、この州がアフリカ系の黒人居住区であったということがある。このため、同州の白人の多くは広大な農業のオーナーなど特権階級にルーツを持つことが多い。またインド系の住民が少ない。アフリカ系の黒人は移動が制限され、この州のなかに政策的に閉じ込められた。このような歴史的な背景も地域外に人々が流出することのモチベーションとなっている。

 先述のとおり、クワァクワァ地域の多くの世帯は安定した職についておらず、生活保護に頼って暮らしている。そのため、両親のうちのどちらか、あるいはその両方が出稼ぎでヨハネスブルクやダーバンに居住しており、定期的にクワァクワァ地域に戻る場合や、子どもが高校生以上の場合には週末に子どもたちが両親のいる都市部を訪問するというパターンが生まれている。そのため、クワァクワァ地域に居住している若者の多くは同地域に対して「いずれ出ていく場所」と考えている場合が多く、人口流出が常態化している地域といえる。

 本事業での南アフリカ側でのフィールドワークの連携先となっているフリーステート大学はメインキャンパスのブルームフォンテイン・キャンパス(レソトの北西側)の他に、このクワァクワァ・キャンパスを持っている。フリーステート州の東側において比較的大きな居住地域であるクワァクワァの人口は約50万人であり、同地域の中には6つの行政区がある。このうち商業施設などが集中しており、中心市街地的な位置づけとなっているプタディチャーバ(Phuthaditjhaba)を中心に、4件の起業家を訪問した。

 インタビューした起業家のうち2名は地域外から安価な労働力を求めてクワァクワァに工場を設置していた。ひとりは古紙から再生紙トイレットペーパーをつくるリサイクル事業を展開している中国人オーナーであり、元々はレソトで同事業を行っていた。クワァクワァは地理的にダーバンとヨハネスブルクの両方から古紙を回収しやすいため選んだとのことだった。工場では約100名ほどの従業員がシフト制で就労しており、時給300-400円ほどの賃金が支払われている。もうひとりの事業者はダーバン出身のインド系起業家であり、小学校向けの制服をつくる縫製工場を運営していた。工場では約300名ほどが就労しており、作業はノルマ制で1時間あたりに仕上げる制服の数が決められている。賃金は時給25ランド(約200円)からと低賃金ではあるが、雇用に際して学歴や職歴が求められることはなく、学校を途中で止めてしまった若者や、露店で少額の日銭を稼いでいた女性などでもすぐに職を得ることができる。

図4.クワァクワァでの起業家へのインタビュー(左から洗車用の洗剤の製造と販売、学生服の縫製工場、古紙からトイレットペーパーをつくるリサイクル工場の様子)

 他2名の起業家はクワァクワァ地域の出身で、ひとりは家具の製造と販売を、もうひとりは洗剤の工場を事業として行っていた。特に後者の洗剤を製造・販売している起業家が特徴的で、普段は地元の教会の牧師として務めている。彼はクワァクワァ地域で生活をするなかで、洗車を仕事としている労働者が、洗車の際に洗剤と水を大量に使い、その排水が処理されることなく地域の土壌に流れていることが気になった。そこで教会のネットワークを通じて環境への影響が少なく、かつより少量の水で1台の車を洗車できる洗剤を開発し、これを製造・販売している。ボトル1本あたりの価格は通常のものよりも高いが、従来1台の洗車に1本の洗剤を使用していたところに彼の開発した洗剤であれば1本で3台の車が洗車できる。このため結果として洗車で日銭を稼いで生活している者には歓迎されており、販売も順調に伸びているとのことだった。彼自身は洗剤の開発や販売に関する専門的な知識は有していないものの、教会を通じて地域のネットワークに深くつながっていることによって、事業に必要な知識を得ていた。これに加えて、事業をはじめるための資金についても教会のネットワークを活用して確保しており、彼の事業におけるソーシャル・キャピタルの果たしている役割が明示的であった。

 起業家へのインタビューに加えて、フリーステート大学クワァクワァキャンパスの学生グループに対してヒアリングを行った。具体的には5−6名の学生グループ2組に対して、クワァクワァの地域に対して思っていること、大学を卒業したあとの計画、将来的な夢、家族や知り合いで他地域に既に移住している人たちの有無と彼らとのつながり、などについて聞くことができた。はじめに彼らの多くがクワァクワァ地域の出身か、ダーバンのあるクワズルナタール州の出身であった。大学を終えたあと、彼らの多くはヨハネスブルクやダーバンなどの都市で仕事に就きたいと思っているが、同時に就職先を見つけることがとても難しいと今から心配をしていた。クワァクワァ地域に対する愛着は強く、自分たちのカルチャーに対しての心理的つながりも強いと話している一方で、そのような思いとは対照的に、仕事や教育のことを考えるとヨハネスブルクなどの都市に出たいと考えているようだった。

 第1回目のフィールドワークとしては、プタディチャーバを中心としたエリアについての土地勘が得られたこと、地域内外の起業家とのコンタクトがつくれたこと、フリーステート大学クワァクワァキャンパスの学生と出会うことができたことが具体的な成果であった。特にクワァクワァ地域の出身者で事業が起こし、地域に雇用をつくっている人たちに注目することで、同地域の特に若者の間に顕著である人口の流出傾向に対して新しい視点が得られるのではないかと考えた。また、ヨハネスブルクやダーバンへと職を求めて移住した者や出稼ぎに出ている者を追跡することで、農村と都市の現状でのつながり方について知見を得ることができると考えた。これらを次回以降のフィールドワークで探求していく計画である。

 


②秋田での研究セミナー・共同フィールドワークの実施(2018年9月7日〜15日)

 2018年9月に、本事業における日本側での第1回目の研究セミナーとフィールド演習を秋田県にて実施した。合計14名が参加し、内訳は南アフリカ4名、ナイジェリア1名、マレーシア1名、タイ1名、日本4名、大学院生3名であった。このうち、大学院生3名に対しては、同期間は縮小高齢化が進む農山村地域におけるアントレプレナーシップをテーマとしたフィールド演習として設定され、インタビュー調査の実施を通じて質的研究手法について学ぶ機会が提供された。

 はじめに、9月7−8日に秋田市の国際教養大学を会場として、日本が直面している縮小高齢社会と秋田県における地域づくりの取り組みについての研究セミナーを行った。秋田県は全国のなかで最も高齢化率と人口減少率が高い県であり、なかでも若者人口の県外流出が人口減・高齢化の主要因となっている。就職や教育の機会を地域外に求めて移動することは個人の選択のためそのことを否定することはできないが、一方で地域からすれば個人が流出するだけでなく、地場産業や将来の地域コミュニティの担い手がいなくなり、地域固有の風土や民俗の世代関係性が難しくなっていくことを意味する。このような状況に対して、地域の視点からすれば、仮に県内の若者世代が就職や進学のために他地域に流出したとしても、10〜20年の間に流出した人口のうちの一定数が還流するような仕組みが必要となる。このためには、他地域に流出する前段階にある県内の高校生と大学生への働きかけが重要となる。セミナーでは、都市化に伴って若者を中心とした都市部への人口流出が世界的なトレンドとなっていることを示し、その対応として都市側での対応だけでなく、農村と都市の連携(Rural-Urban Linkage)の視点から議論を深めていくことが必要であることを確認した。

 次に、秋田県南秋田郡五城目町において、ローカル・アントレプレナーシップをテーマとしたフィールドワークを実施し、他地域から同町に移住して起業した6名の起業家に対してインタビュー調査を行った。これらの起業家の多くが、長年構想してきた事業アイデアを実現する場として農山村地域を選び、地域に根ざしたコンテンツを展開していた。このフィールドワークは、大学院生の参加者3名に対しては質的研究手法を学ぶためのフィールド演習として実施され、彼らが中心となってインタビュー調査とデータ分析を行った。このなかで、6名の起業家がどのような事業アイデアを具現化していったのかをソーシャル・ネットワークを用いで分析した。これを通じて、事業に必要な場所や設備、制度的手続きについての知見を有する者との間を取り持つ仲介者の役割(role of intermediaries)が明らかになった。地方自治体が現在取り組んでいる政策としては、起業を検討している個人に対する施設提供や資金的サポートを通じた支援が多いが、そのような起業を検討している個人の相談役や世話役となる人々に向けた政策はない。今回調査をした6名の起業家のうち、5名については同町の製造業や農家と深い繋がりを持っている個人が事業を具現化する段階で重要な役割を果たしていることがわかった。このことより、起業を目指す個人をサポートするために併走する仲介者を育成するようなプログラムの検討が提案された。

図5.秋田県における共同フィールドワークでのインタビュー


 フィールドワークにおいてこの結果に辿り着く過程において、拠点形成事業に参加した研究者と大学院生メンバーとの間でフィールドワーク中にインタビューの進め方や内容についての振り返りが行われ、このときに研究者メンバーの専門分野と個々のフィールドからの知見が共有された。例えば、南アフリカの研究者からは、日本社会の文脈におけるルーラリティ(rurality)に関する問いが示された。南アフリカでは、「農山村地域(rural areas)」という言葉が使われるとき、そこには都市部に比べてインフラ整備や教育などが十分に行き渡っていない低開発のニュアンスを含んでおり、アントレプレナーシップについての議論もその低開発の状況に対応するための収入源の確保や地域課題に対するソーシャルビジネスの意味合いが自然と含まれるとのことだった。一方で日本の場合には生活環境や経済活動に関する項目において都市の農村の間で顕著な違いがなく、インタビューをした6名の起業家の全員が過疎高齢化によって生じている地域課題に対応するために起業しているわけではないことも分かっている。むしろ、この文脈での農山村地域(rural areas)は、起業家が個人として持っている創造性(creativity)を都市部よりもより自由に発揮できる場、というようなニュアンスがあるのではないか、という議論が生まれた。フィールドワークにおいては、このような知見共有のプロセスが研究と教育の同時展開として起こり、チームとして最も深い学びが生まれた瞬間であった。

 第1回目の研究セミナーと共同フィールドワークを通じて、日本側では縮小高齢社会という新しい社会現象が起きている状況において、農村地域を自己実現の場として積極的に選び様々な事業を展開している起業家の動向を知ることができた。これは本事業に参加しているアジアとアフリカの国々では見られない傾向である一方で、貧困や社会課題などではない、アントレプレナーシップが起こる新しい動機に気がつくことができた。同様に日本側の事例を従来とは異なる方法で分析するための視点をアジア・アフリカからの研究者メンバーが参加したことによって得ることができた。これらの新しい視点を次年度以降のアフリカ側との共同フィールドワークや研究セミナーを通じて深めていく計画である。

 


③南アフリカ・クワァクワァ地域でのフィールドワークとフィールド演習の実施(
2019年2月9日〜18日)

 平成30年の計画として、2019年2月9-18日の予定で、フリーステート大学クワァクワァキャンパスを拠点として、同地域における人口流出とローカル・アントレプレナーシップに関するフィールドワークを実施する。このフィールドワークには5名の大学院生がフィールド演習として参加予定である。詳細については実施後に追記する。

 


5.多様性からの学びのデザイン:トランスローカル・ラーニングの提案

 本事業における第1回目のアジア・アフリカ両地域でのフィールドで得られた知見から、持続可能な社会のあり方を構想するときに必要となる新しい視点を獲得する方法として、「トランスローカル・ラーニング』が提案された。本事業では、農村都市連携を具体的なテーマとして、アジア側は日本・秋田県を、アフリカ側では南アフリカ・フリーステート州クワァクワァ地域をフィールドに、研究・教育・社会実装を同時並行的に展開する社会デザインを実施している。両地域に共通することとしては、若者人口の地域外流出が常態化していることであり、このことへの対策が求められている。この対策における一つの有用な切り口として、ローカル・アントレプレナーシップがある。

 ある若者が自身の教育や就職などために都市に移動することは、個人の自由であり、そのこと自体を否定することはできない。そのため、人口流出を「社会課題」と捉えるだけでは、起きていることの一面を見ているに過ぎない。ある若者が自己実現を目指して移動をするそのこと自体はポジティブでもネガティブでもないため、農村都市間での人口移動は、価値中立的に「現象」して捉えることが望ましい。このように、ある事象を「課題」と捉えるか、或いは「現象」と捉えるかには、思考的相違がある。

 前者のように人口流出を社会課題と捉えれば、それは「解決されるべき対象」となり、提案される対応は「課題→解決」というような直線的な思考の上に現れる。持続可能な社会のあり方に関する議論において、このような課題解決型アプローチが支配的になってしまうと、考えの起こり方が、ほぼ無自覚に「解決するべき課題を探し求めること」から始まってしまう。新しい着想を得ようとする場合、課題解決を起点とする思考方法だけでは事の本質を見誤る。課題解決型アプローチは、「解決されるべき対象」に関する共通認識が根底にあるため、議論の効率性は高くなるが、議論の多様性は低くなってしまう思考である。それでは、議論する対象がポジティブにもネガティブにも解釈ができる現象であった場合、私たちはどのように発想し議論するのが望ましいのだろうか。

 サステイナビリティ課題の多くは、「何を誰のために持続するのか」という価値規範的な議論を含んでいる。そのため、短期的な課題解決型アプローチの視点とともに、多元的な価値観を前提とした視点から長期的な順応型アプローチの視点を持つ必要がある。このような多元的な価値観を前提とした、多様性のからの学びとして、トランスローカル・ラーニングを提案する。

図7.本事業におけるトランスローカル・ラーニングのイメージ図


 トランスローカル・ラーニングは、異なる風土、歴史、社会経済状況にある複数の地域間をある特定のテーマでつなぎ、お互いの地域を往来しながらフィールドワークを行っていくことで、自身のローカルに反映できる視点を獲得するための集合的な学び(ソーシャル・ラーニング)の方法論である。従来の比較研究では、共通テーマに関して特定の項目以外には類似した地域を選出し、特定の状態を生み出ている要因を探ることが目的とされる。トランスローカル・ラーニングはこれとは対照的に、相互乗り入れの共同フィールドワークを、諸条件が大きく異なる2つ以上の地域でジグザグに行き来し、共通テーマについての異なる考え方や取り組み方を学びながら、集合的に知見を積み上げていく(図7)。この過程で研究参加者、現地コーディネーター、インフォーマントが、お互いの地域に特徴的な視点を共有していく。比較研究では、分析を通じて普遍的な解を探す一方で、トランスローカル・ラーニングでは、関わる人たちの集合的な学び(ソーシャル・ラーニング)に視点がある。

 お互いのローカリティを参照点として保持しながら、それぞれの地域にとっての持続可能な地域の姿を描き出す過程を伴走することによって、自身の地域だけでは考えもしなかったような視点を取り込むことができる。例えば今年度の秋田でのフィールドワークにおいては、ジェンダーと多民族社会に関する話題が提供された。同様に、南アフリカ・クワァクワァ地域でのフィールドワークでは、人々の創造性やアートを起点とした起業についての話が共有された。このように、地域の文脈が大きく異なる地域どうしを研究者チームが往来しながら、複数回のフィールドワークを通じて地域住民と交流をしていくことで、参加する地域の持続可能な開発についての議論が内に閉じず、新しい視点を獲得しながら進めていくことが可能となる。本事業では、次年度以降にこの「トランスローカル・ラーニング」を新しい地域づくり・コミュニティ開発の方法論として構築していくことを目指している。

 

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